SKIN 動作確認 堅がビルの屋上で、フェンスに腰掛けていた。つま先はビルの外だ。 足をぷらぷらさせている。シャツの前ははだけていた。 ずたずたに傷跡が走った胸部が、腹部が、露出している。 その様子を、 …死の淵に腰掛けて平然としている堅を、鳥本は衝撃をもって目撃した。 鳥本「堅さんー、」 鳥本は堅の背中に呼びかけた。 鳥本「怖くないんですかー?」 鳥本の声に堅は振り返った。 堅「何がだー?」 鳥本「落ちますよー」 鳥本は眼鏡の位置を直した。 堅はフェンスを跨ぐような座り方に変わった。 堅「ふつうに怖いぞー」 堅の姿は鳥本の網膜に結像している。 大丈夫だと、鳥本は自分に言い聞かせた。 堅の全身が視界にうつっている。 堅はいまや物質転送能力者の手のひらの上だ。 鳥本「本当に怖いんですかー?」 鳥本は瞬きを我慢していた。 堅「あぁー、」 堅「落下は怖い」 堅「治せる気がしない」 堅「海に一滴落とした血みたいになるだろうな」 鳥本「どういう意味ですかー」 堅「消えてなくなる」 堅が両足をおさめて、フェンスから飛び降りた。屋上の床に着地する。 堅「戸次じゃなくてよかった」 堅「キレられてめんどくさくなりそうだ」 鳥本「僕ってそんなに薄情に見えますかね?」 堅「うん」 もっと薄情な答えが返ってきた。 堅「悪い意味じゃないぞ」 鳥本「僕も知らない自分を発見できて驚いてますよ」 鳥本「“心配だから怒る”という他人の動きを理解できずにいましたが」 鳥本「身体でやっとわかりましたよ」 堅「そうなのかー」 元凶はあまりにものんきだった。 鳥本が眼鏡を外した。 怒りに支配された時能力を誤作動させないように、自ら習慣化した仕草だった。 堅はそれを真顔で見ている。 いつも堅はヘラヘラしているが、肝心な時までヘラヘラできないあたり、真面目人間を捨てきれない男だった。 鳥本「…いつも屋上でああして過ごしてたんですか?」 堅「いや、初めてやってみたんだ」 堅「ああしないと怖いことがあった」 鳥本「………。」 鳥本「…よく意味が分かりませんが」 堅「前まではあんなことしなくても怖かったんだ」 堅がフェンスを撫でた。 堅「こう…フェンス越しに覗いても、ゾワっとしたんだが」 堅「それが無くなってしまった」 2026年8月30日