PROJECTION

葛城正親編

照準器

2016年 5月 5日

引越し業者のアルバイトから帰還した堅の報告を聞いた。 出勤時、事務所のロッカーから突然出現したようだ。 引越し業者の社長からは、事前の面接で「遅刻しそうになったらそのドアを使ってもいい」と冗談混じりにドアへの接触を許したと聞き及んでいる。 その後も許可なく能力を使用して、堅と上司に飲み物の差し入れをしたという。 4月の指宿楓との面接時も、自身の特殊能力を誇らしげに見せびらかしていた。 戸次信長の生い立ちから、特殊能力を隠し通して生きてきたことが窺える。 特殊能力は、彼の犯罪歴との結びつきが強いからだ。 「特別な自分を誇示したい欲望」を押し隠していた分、「能力を人前で使って良い」という開放感を覚えやすいだろう。 一方で、不可解な点もある。 戸次信長は、嘘をついて帰り道に堅についてきたという。 堅はこの事案に恐怖と混乱を覚えて、延金と私にメールに重ねて口頭報告した。 堅自身はその理由がわからず、強い警戒心を抱いている。 私の見立てでは、戸次信長は堅に心惹かれている可能性が高い。 戸次信長は両性愛者であることを窺わせる自己紹介を、堅に対してしていた。 堅が恋愛対象に含まれうることを示す情報である。 堅はその発言に注意を払わなかったため口頭で報告しなかったが、記憶を読み取って発覚した。 記憶によると戸次信長は、上司よりも堅に対して圧倒的に高い頻度で話しかけてもいた。 堅の個人情報や嗜好を引き出せるような話題を提示しつづけ、結果として戸次信長の情報が堅に筒抜けになっていた。 私が戸次信長の実家の履歴を読んで組み立てた仮説が的中した。 戸次信長が好む交際相手の特徴に、堅が適合した。 堅は戸次信長に対する自分の興味を、私や延金に対して押し隠している。 戸次信長に対して、能力を外で使わぬよう釘を刺したことを口頭報告しなかった。 延金から事前に戸次信長の生い立ちを聞いた時に抱いた疑問が、本人と会ったことで肥大化している。 次回のバイトにおける戸次信長のふるまいには注意を払う。 きっと堅は彼を今日以上につぶさに観察し、いずれその記憶が私に流れ込むだろう。 私の望みいかんに関わらずだ。
2026年8月15日