PROJECTION

葛城正親編

霊安室

2015年 7月

延金は正親宅を訪れた。 真昼の平屋の中は、真っ暗で、静まり返っている。 延金は迷うことなくその中を突き進んでいった。 長い廊下の奥に、ひときわ影が濃い一角があった。 延金はそのふすまを開けた。 そこには、闇が広がっていた。 窓がなく、7月の暑さが始まっている時期にも関わらず、冷房はついていなかった。 いや。延金は知っている。 この部屋には空調をつけることができないのだ。 なぜなら、この部屋には配線が敷設されていないためだ。 それゆえ、照明も天井に設けられていなかった。 延金はふすまを開けるそのときにはすでに、床を見下ろしていた。 そこには、白い布団が敷かれていた。 延金はずかずかとその部屋に足を踏み入れ、布団の奥の一辺に向かうとしゃがみ込んだ。 長い黒髪が乱れ、ちらばっていた。 それは襦袢姿で布団に臥る、葛城正親であった。 真っ暗い部屋なので、正親の表情は窺い知れなかった。 それどころか、正親は布団を顔まで被って寝ていたので、なおさらであった。 まるで、熱を出して寝込むこどものようであった。 延金は直感していた。 きっと、頭には氷枕を敷いているだろう。 それでも、重要な客が来たので正親を叩き起こしざるを得なかったのだ。 延金は顔を正親に近づけ、小声で必要最小限の情報を伝えた。 「......。」 「すぐ行く」 力のない声だった。 延金はまた、教え子の幼い声を思い出すのであった。 発狂状態から回復したての頃の、弱々しいこどもだった、正親を。
2026年8月10日